インプラントは新しい歯科治療とのイメージが強いが、実は紀元前の昔から歯科治療としてのインプラントが試みられていたことが古代遺跡から発見されている。
現在、人類の歴史上最も古いとされるインプラントは、トルコで発見された石製のインプラントで、なんと紀元前550年頃のものだとされる。ただし、このインプラントは、実際に歯の代わりとして機能出来ていたかは疑問で、儀式などの為だけに使われていた可能性が高い。
近代になって、ステンレスやコバルトクロム、金、サファイヤなどを利用したインプラントが試みられたが、これらの予後は悲惨なものであったと言われる。チタンとは異なり、骨結合が発生しないことが最大の原因と考えられる。医療技術も全ての要素において現在よりはるかに遅れていたので、失敗した後の治療も困難だったのだろう。
1952年にスウェーデンの医師ブローネマルクによるオッセオインテグレーション(骨結合)の発見からインプラントが実用的な治療技術として確立していく。素材としてチタンが導入されるようになり、インプラントは極めて良好な成果をもたらすようになったのである。生体に不活性であるチタンは、これまでの素材と異なり骨と直接結合する性質を持っている。
1980年代になると日本でも歯科インプラントに対する取り組みが始まったが、当初は人工サファイアを使ったインプラントが行われるなどトラブルも多かったようである。
世界的な流れとしては、1988年のトロント会議で、世界中の著名なインプラントジスト(インプラントをする医師)が集まってコンセンサスレポートを打ち出している。
「5年85%、10年80%以上の生存」を成功の基準として認め、世界的にチタン製のインプラントが開発・利用されるようになり、安全かつ予知性の高いインプラントの時代が到来した。 ※コンセンサスというのは、EBM(Evidence:根拠 Based:基づいた Medicine:医療)に基づいた報告であり、一部の歯科医の経験のみの報告は除外されたものである。
現在、インプラントの形状や表面の改良による性能の向上、骨質・骨量の不足を補う骨造成・骨移植の進歩、歯科技工物の品質向上などによって、さらにインプラントの質は向上し、15年生存率90%以上ともいわれるまでになっている。
現在、全世界で100以上のインプラントメーカーが存在すると言われている。材質はチタンが殆んどであるが、未だにチタン以外の材質も僅かながら存在している。
形状や表面の性質などがインプラントの特徴を決める要素で、以下に代表的なものについて簡単に解説しよう。
ブローネマルクインプラント
スウェーデンで開発されたインプラントで、ブローネマルクの研究を元に開発されたインプラント。30年の実績があり、世界的に普及している。2回法で行うことが多く、治療期間も比較的長いのが特徴となっている。
ITIインプラント
スイスで開発されたインプラントで、ブローネマルクに対抗すべく作られた。表面を酸処理し粗面にすることでオッセオインテグレーション(骨結合)までの期間を早め強度を向上させている。一回法で使用されるケースが多いインプラントである。
アストラインプラント
スウェーデンで開発されたブローネマルクインプラントの改良型である。インプラントの表面を粗面に加工することで骨とインプラントの結合する面積を増やし、インプラントの早期固定、強度の向上を実現している。現在、最も評価されつつあるインプラントといわれる。
メンテナンスが十分でないと、『インプラント周囲炎』という歯槽膿漏に似た病気にかかることがあります。人工物であるインプラントには神経が通っていませんので、初期の段階での自覚症状がない場合があります。よって、かなり状態が進行しなければ気付かないかもしれません。予防法として、定期健診をきちんと受け、歯磨きを怠らないでください。
如何なるものに寿命があると同様に、インプラントにも寿命があります。何年もつかと正確には言えませんが、手入れの具合によりその寿命は決定されます。自分自身のメンテナンスは、もちろんのこと定期的に検診を受けることをお勧めします。 尚、オッセオインテグレーテッド・インプラントの場合、30年以上問題なく使用されている方もいます。この種のインプラントの人工歯は取り外し可能なので補修する際に取り外し、メンテナンスを行うことができます。